はちがつのにっき
もう何年も見ていない。
バスから見える入道雲を醜いほどに綺麗だと思った。あれはいつだったか。もうわからない。
夏は随分賑やかだ。でも私の気分はずっと晴れないでいた。その理由もわからない。
クラスの人にいじめられているわけでも、家で罵声を浴びるわけでもない。
携帯だって使えるし、それなりに友人もいるし、手料理ではなくとも食には一切困らない。
いつも脳のどこかに、莫大で霞んだ恐怖が存在している。例えるなら雲のような。
あの時見た入道雲みたいにはっきりしたものではなくて、秋の初めにのろのろと空を渡る雲。
あれが嫌、これが嫌、と言う確固たる恐怖を感じることは至って平凡な幸せだ。
私がいつも感じている恐怖は、線のない絵画みたいに緩やかで霞んでいる。
仮にも恐怖なのだから、怯えているわけだが、その恐怖の中で、まるで真夏の台風の目のように、私は安らいでいる。
いつか、この、恐怖も、晴れるだろうか。